国家試験で出題される周波数特性と雑音について解説します!ここら辺はマイナーなので余裕のある人向け?
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各見出しの重要度は,過去の臨床検査技師国家試験(第52回~最新回まで)の出題率や覚えやすさなどを考慮して主観で表記しています。国家試験を受ける学生以外の方は無視してかまいません。
周波数特性(重要度:★☆☆☆☆)
周波数特性とは?
周波数特性とは,周波数(信号に含まれる波のうち,1秒間の波の数)と,その周波数における増幅度の関係を表したものです。
「医療工学解説-増幅回路(増幅器)」では様々な増幅回路(増幅器)を扱いましたが,増幅器の種類やその組み合わせによって増幅できる信号の周波数は変わってきます。これを視覚的に表したものが周波数特性です。
例えば,ある増幅器にいろいろな周波数の信号を入力し,それぞれの相対増幅度(入力信号の増幅度[dB]-増幅器の増幅度[dB])をグラフにすると図1のようになったとします。
図1
図1より,この増幅器は,100Hz前後の信号なら0dB(=×1)と,ほぼ増幅器の示す増幅度分だけ信号を増幅できるのに対し,10Hzや1000Hzの信号だと-10dB($\approx$×0.32)と,増幅度が約0.3倍となってしまいます。
すなわち,この増幅器は,10Hzや1000Hzなどの信号を増幅させるのには向いていないということになります。
帯域幅
周波数特性のうち,相対増幅度が-3dB(×$\frac{1}{\sqrt{2}} \approx$×0.71)~0dB(×1)となるような周波数の範囲を帯域幅といいます。
図1であれば,帯域幅は20~700Hzということになります。
帯域幅が広いほど,幅広い周波数の信号を増幅させることができます。
帯域幅が広いほど,増幅器内部で発生する雑音(不要な信号)が大きくなってしまうので,フィルタというものを用いて帯域幅を増幅させたい信号の周波数に合わせるようにします。
ペンギンくんが言っていた負帰還増幅回路の特徴はこちら。
生体計測機器の周波数特性
心電図や脳波など,対象とする生体信号によって,各機器の周波数特性も異なってきます。とりあえず,表の3つの周波数特性を(何となくでいいので)覚えておきましょう。
生体計測機器 | 心電計 | 脳波計 | 筋電計 |
周波数特性[Hz] | 0.05~200 | 0.5~70 | 5~10000 |
時定数[s] | 3.2 | 0.3 | 0.03 |
時定数については,「医療工学解説-フィルタ(濾波器)」でわかりやすく解説していますので,そちらを参照してください。
なお,時定数を覚えておけば,周波数のうち,低いほうは計算で出せるので,後は,最も周波数が高いものが筋電図と覚えておけば問題ありません。
雑音(重要度:★★☆☆☆)
雑音とは,目的とする信号以外の信号のことです。これが存在すると,目的とする信号を増幅する際に,不要な信号まで増幅させてしまうため,雑音を抑制する必要があります。
雑音には,増幅器内部で発生する内部雑音と,増幅器外部から入ってくる外部雑音があります。
内部雑音
以下の5つがあります。
- 熱雑音(熱エネルギーによる電子の無作為な動きによって発生・増幅器の帯域幅に比例して↑)
- フリッカ雑音(増幅素子自体から発生)
- マイクロフォニック雑音(電極の機械的振動によって発生)
- ハム雑音(交流加熱によって発生)
- ドリフト(素子の温度特性が絡み合って発生)
外部雑音
外部雑音には商用交流があります。
商用交流には,電灯線や電源由来のもの(静電誘導)と,被検者由来(床に流れる交流が被検者を伝わって増幅器に混入)のもの(漏れ電流)などがあります。
電磁妨害と電磁両立性
EMI・EMC・EMS(immunity)
医療機器や電子レンジ,スマートフォンなどは,その機能維持のために電磁波と呼ばれる波をその機械から発生させています。この電磁波は,他の機器にとっては雑音(=妨害雑音)となることもあります。
このとき,この妨害雑音によって他の機器の動作に影響を与えてしまうことをEMI(electromagnetic interference,電磁妨害)といいます。
逆に,他の機器の妨害雑音(EMI)があっても,雑音を排除し,その機器の性能を維持する能力のことをEMS(electromagnetic susceptibility,電磁感受性)あるいはimmunity(ノイズ耐性)といいます。
EMIとEMS(immunity)の概念を合わせたもの,つまり,他の機器に影響を与える電磁波(雑音)を極力出さないことと,他の機器からの妨害雑音の影響を受けないことの両面を持っていることをEMC(electromagnetic compatibility,電磁両立性)といいます。
EMIによる雑音
以下の5種類があります。余裕があれば覚えるくらいで大丈夫です。
- ドリフト
- 商用交流雑音
- 高周波雑音
- 磁気雑音
- 静電気雑音
練習問題
問1 臨床検査としてデジタル記録する場合,必要サンプリング周波数が最も高いのはどれか。(第62回臨床検査技師国家試験pm96)
1.心電図
2.心音図
3.脈波
4.筋電図
5.脳波
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解答:4
最も周波数が高いのは筋電図なので,4が正解となります。
問2 機器およびシステムが存在する環境で,許容できないような電磁妨害をいかなるものに対しても与えず,その電磁環境で満足に機能するための機器およびシステムの能力を意味するのはどれか。(第57回臨床検査技師国家試験pm97)
1.common mode rejection ratio(CMRR)
2.electromagnetic compatibility(EMC)
3.electromagnetic interference(EMI)
4.electromagnetic susceptibility(EMS)
5.immunity
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解答:2
問題文のうち,「機器およびシステムが存在する環境で,許容できないような電磁妨害」はEMIを表します。また,「電磁環境で満足に機能するための機器およびシステムの能力」はEMS(immunity)を表します。今回の問題は「その両面(EMIとEMS)を持っていることを何というか」という問いなので,答えはEMCとなります。
問3 医用電気機器が他からの電磁的な妨害に耐える能力を示すのはどれか。(第28回臨床工学技士国家試験pm44)
1.EMC
2.EMI
3.ESD
4.immunity
5.emission
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解答:4
電磁妨害に耐える,つまり受ける側の対処なので,immunity(EMS)が正解となります。なお,EMIは電磁妨害を与えること,EMCはEMIとEMSの概念を合わせたもの(意味は問2を参照)になります。(ESDとemissionは知らなくて構いません)
問4 電磁妨害による雑音で誤っているのはどれか。(第54回臨床検査技師国家試験pm97)
1.ドリフト
2.フリッカ雑音
3.高周波雑音
4.静電気雑音
5.商用交流雑音
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解答:2
電磁妨害による雑音は- ドリフト
- 商用交流雑音
- 高周波雑音
- 磁気雑音
- 静電気雑音
の5種類なので,これに当てはまらない2が正解です。ただ,覚えるほどかといわれると微妙なところです。
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