国家試験で出題される増幅回路について解説します!難しいようで意外と簡単!?
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各見出しの重要度は,過去の臨床検査技師国家試験(第52回~最新回まで)の出題率や覚えやすさなどを考慮して主観で表記しています。国家試験を受ける学生以外の方は無視してかまいません。
増幅器の種類(重要度:★★★★☆)
増幅器とは,その名の通り,信号を増幅させる装置のことです。この中には,増幅にかかわる回路(増幅回路)が組み込まれています。
心電図や脳波というのは微弱な信号であるため,これを検出するために増幅器を使って信号を増幅させます。また,単に信号を増幅させる以外にも,雑音を排除するという機能を持った回路などもあります。
増幅回路にはいろいろ種類がありますが,国家試験的には以下の4種類を覚えておけば十分でしょう。
- 反転増幅回路
- 非反転増幅回路
- 差動増幅回路
- 負帰還増幅回路
反転増幅回路
-極を入力として使う増幅回路で,反対に+極は接地します。
入力電圧と出力電圧の位相(+/-)が反転する(逆になる)ため,この名称がつけられています。
主に入力信号の増幅に用いられます。
入力Vinと出力Voutの関係は以下の通りです。
$$V_{out}=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$
後述する非反転増幅回路と混同しがちですが,反転=マイナス(-)と考えて,反転増幅回路なら「反転」なのでマイナスが入力,非反転増幅回路なら「非反転」なのでプラスが入力と覚えておくと混同せずに済みます。
非反転増幅回路
+極を入力として使う増幅回路で,反対に-極は接地します。
入力電圧と出力電圧の位相(+/-)が反転しないため,この名称がつけられています。
反転増幅回路同様,主に入力信号の増幅に用いられます。
入力Vinと出力Voutの関係は以下の通りです。
$$V_{out}=1+\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$
差動増幅回路
これはちょっと特殊な回路で,-極側だけでなく,+極側にも2つ抵抗をつなぎます。
※抵抗値は入力に近い側2つ,遠い側2つがそれぞれ等しくなるようにします。
さらに,入力は片方ではなく,-極・+極の両方から行います。
この回路の主な目的は,生体信号などの増幅させたい信号(逆相信号と呼ばれます)を増幅させて,商用交流などの不要な信号(同相信号と呼ばれます)を抑制することです。
入力Vinと出力Voutの関係は以下の通りです。
$$V_{out}=\frac{R_2}{R_1}(V_{in2}-V_{in1})$$
なお,差動増幅器はその性能の良さを同相信号除去比(弁別比やCMRR:common mode rejection ratioとも呼ばれる)を用いて表します。
この値が高いほど,差動増幅器の性能が良い,つまり,効率よく逆相信号を増幅させつつ同相信号を抑制することができるということになります。
原則,生体計測機器(心電計や脳波計)では,CMRRが60dB(デシベル)以上であることが必要とされています。
負帰還増幅回路
これもやや特殊な回路で,増幅器のほかに帰還回路と呼ばれる回路が存在します。
「帰還」の名の通り,出力された信号の一部を入力に戻し,入力された信号を減弱させます。
入力信号を出力信号で減弱させるため,この回路を使うと信号の増幅度が減少します。
なぜこのような回路を用いるのか。それは,増幅度を犠牲にする代わりに様々なメリットを享受できるからです。
- 実行増幅度の安定化(増幅度が変化しても出力信号の増幅度の影響が少ない)
- 周波数特性の改善=帯域幅の拡大(各周波数による増幅度の変化が小さくなり,増幅が安定する)
※周波数特性・帯域幅については「医療工学解説-周波数特性と雑音」を参照してください。 - 雑音(ノイズ)の抑制 など
入力Vinと出力Voutの関係は以下の通りです。
β:帰還率(出力信号を入力信号として戻す際にどのくらい戻すのかを表す値)
通常だと,出力Voutは入力Vinに増幅度Aを掛けたものとなるため,
しかしながら,負帰還増幅回路では,出力Voutのうち,帰還率β分だけ入力に戻すため,負帰還増幅回路の出力は
増幅回路まとめ
増幅度の計算(重要度:★★★★★)
基本的な増幅度の計算
基本的に増幅度といえば,〇倍と表すのが一般的なように思います……が,増幅器を扱う世界では,10000倍や1000000倍などといった大きな桁を扱うので,これをそのまま表記すると大変です。
なので,これを対数表記した値を用います。表記法は以下の通りです。
$A=10\,\mathrm{log}_{10}X$(扱う対象が電力のとき)
X:増幅倍率
増幅度を対数表記した場合は新たな単位dB(デシベル)が登場します。dB表記することで,大きな増幅倍率を小さな値で表せるメリットがあります。
例えば,電圧を1000000倍にできる増幅器があったとき,これを単純に1000000倍というと0が多くて大変です。
しかしながら,dB表記をすると
となり,1000000を120という小さな数字で表せるようになります。
上記の式に増幅度を代入するだけで得られます。なので,表の値は覚えるというよりも参考程度に……。
増幅度 | 対数表記[dB] | 対数表記[dB] |
×10-4 | -80 | -40 |
×10-3 | -60 | -30 |
×10-2 | -40 | -20 |
×10-1 | -20 | -10 |
×1 | 0 | 0 |
×10 | 20 | 10 |
×102 | 40 | 20 |
×103 | 60 | 30 |
×104 | 80 | 40 |
また,増幅器を複数接続したときにも計算が楽になる要素があります。
例えば,電圧を1000倍にできる増幅器を2つつなげたとします。すると,全体の増幅度は
となり,これも結構大変です。しかしながら,1000倍をdB表記,つまり60dBとすると,全体の増幅度は
と,足し算で計算できるようになります。これが対数表記をするメリットです。
1.大きな数値(倍率)を小さな数値で表せる。
2.複数の増幅器をつなげた時に,全体の増幅度を足し算で求められる。
もちろん,これらのメリットは対数表記をすることによって得られますので,対数表記にする方法は必ず覚えておかなければいけません。
CMRRの計算
差動増幅器の性能を表す際,同相信号除去比というものが使われます。ただ,「同相信号除去比」という日本語が使われることはほとんどなく,CMRR(common mode rejection ratio)の略称が主に使用されるので,ここでもCMRRを使っていきます。
難しいように感じるかもしれませんが,CMRR自体は簡単です。
Ac:同相信号の増幅倍率
※増幅度[dB]を用いた場合
Ac:同相信号の増幅度[dB]
CMRRは「どれだけ逆相信号を増幅させつつ,同相信号を抑制できるか」を表すため,逆相信号の増幅倍率を分子に,同相信号の増幅倍率を分母に持ってきたものをCMRRの増幅倍率として扱います。
後は,増幅度の対数表記にしたがって,dB表記に変えてしまえばOKです。
実際に問題を解いて,対数表記の感覚をつかんでみましょう。
CMRRを求めるためには,まず逆相信号の増幅度(倍率)と同相信号の増幅度(倍率)をそれぞれ求める必要があります。
※増幅度(倍率)は,出力÷入力で求めます。
逆相信号の増幅度Adは,入力が1mV,出力が1Vであるため
同相信号の増幅度Acは,入力が100mV,出力が1mVであるため
よって,CMRRは
となります。
逆相信号・同相信号の増幅度をdBにそれぞれ変換してから引き算する方法でもCMRRを求められます。
逆相信号の増幅度Ad[dB]は
練習問題
問1 医療機器における差動増幅器の利便性で正しいのはどれか。(第52回臨床検査技師国家試験am81)
1.同相ノイズの抑制
2.周波数特性の改善
3.実効増幅度の安定化
4.基線動揺の抑制
5.リップル率の上昇
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解答:1
差動増幅器の最大の特徴は,逆相信号を増幅し,同相信号を抑制することです。
よって,答えは1となります。
なお,2・3は負帰還増幅回路の特徴です。
問2 電子回路の機能で正しい組み合わせはどれか。2つ選べ。(第53回臨床検査技師国家試験am80)
1.高域濾波器=高周波ノイズの抑制
2.負帰還増幅器=出力電圧の安定化
3.正帰還回路=周波数帯域の安定化
4.変調回路=デジタル計算
5.差動増幅器=同相入力信号の抑圧
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解答:2・5
1.誤り。高域とは,周波数の高い信号のことです。濾波とは,波を通すということです。つまり,高域濾波器とは,高周波の信号を通し,低周波の信号を抑制する回路のことです。よって,高周波ノイズではなく,低周波ノイズの抑制です。
2.正しい。負帰還増幅器の特徴として,出力信号(実行増幅度)の減少・安定化および周波数特性の改善,雑音抑制があります。
3.誤り。周波数帯域の安定化=周波数特性の改善は負帰還増幅回路の特徴です。
4.誤り。変調回路の特徴はドリフト(雑音の1種)の抑制です。(覚えなくて構いません)
5.正しい。差動増幅器の特徴は,逆相信号を増幅し,同相信号を抑制することです。
問3 図の回路でVo/Viはどれか。ただし,Aは理想演算増幅器とする。(第29回臨床工学技士国家試験pm54)
1.$\frac{R_2R_4}{R_1R_3}$
2.$-\frac{R_2R_4}{R_1R_3}$
3.$\frac{R_1R_3}{R_2R_4}$
4.$-\frac{R_1R_3}{R_2R_4}$
5.$\frac{R_2R_3}{R_1R_4}$
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解答:1
図の増幅回路が何かさえわかれば簡単です。
一見難しそうに見えますが,左半分のみを注目してみます。すると,この回路は-極側が入力,+極側が接地されているため,反転増幅回路であることが分かります。
反転増幅回路の出力信号の増幅度は,$$V_{out}=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$であるため,この回路の出力をVとすると
$$V=-\frac{R_2}{R_1}V_i (1)$$となります。
次に,右半分を注目してみます。すると,こちらも反転増幅回路となっており,この回路の入力信号は先ほど求めた出力Vとなるため,図で表すとこのようになります。これより,この回路の出力Voは
$$V_o=-\frac{R_4}{R_3}V (2)$$となります。
最後に,(2)に(1)を代入して,Vo/Viの形にすればOKです。
よって,$$V_o=-\frac{R_4}{R_3}\times \left( -\frac{R_2}{R_1}V_i \right)=\frac{R_2R_4}{R_1R_3}Vi$$$$\frac{V_o}{V_i}=\frac{R_2R_4}{R_1R_3}$$となります。
問4 図1の回路において図2に示す電圧V1とV2を入力した場合,出力電圧Voの波形で正しいのはどれか。ただし,Aは理想演算増幅器とする。(第32回臨床工学技士国家試験am55)
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解答:4
図1は差動増幅回路です。なので,この回路の入力と出力の関係は$$V_o=\frac{10\,\mathrm{k}}{1\,\mathrm{k}}(V_1-V_2)=10(V_1-V_2)$$となります。
今回の問題では,時間経過でV1とV2の入力電圧が入れ替わっているので,V1とV2の電圧が変化する1s・1.5s・3.5sのときのVoをそれぞれ求めて,その値と合致するグラフを見つければ答えは出そうです。
まずはt=1sのとき。$$V_o=10(V_1-V_2)=10(0.1-0.1)=0\,\mathrm{V}$$次に,t=1.5sのとき。
$$V_o=10(V_1-V_2)=10(0.2-0.2)=0\,\mathrm{V}$$最後に,t=3.5sのとき。
$$V_o=10(V_1-V_2)=10(0-0.2)=-2\,\mathrm{V}$$よって,t=1,1.5sのときに0V,t=3.5sのときに-2Vとなるグラフを選べばよいため,答えは4となります。
問5 電圧増幅度が10000倍であるとき何dB(デシベル)か。(第55回臨床検査技師国家試験am96)
1.20
2.40
3.60
4.80
5.100
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解答:4
電圧・電流の増幅度の対数表記(dB表記)は$A=20\,\mathrm{log}_{10}X$(Xは増幅倍率)なので,今回の問題では$$A=20\,\mathrm{log}_{10}10000=20\,\mathrm{log}_{10}10^4=80\,\mathrm{dB}$$となります。
問6 入力電圧10mVを増幅して出力電圧1Vを得た。この増幅器の利得[dB]はどれか。(第59回臨床検査技師国家試験am96)
1.10
2.20
3.40
4.80
5.100
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解答:3
電圧・電流の増幅度の対数表記(dB表記)は$A=20\,\mathrm{log}_{10}X$(Xは増幅倍率)なので,今回の問題では$$A=20\,\mathrm{log}_{10}\frac{1}{10\,\mathrm{m}}=20\,\mathrm{log}_{10}100=40\,\mathrm{dB}$$となります。
問7 図の回路の増幅率(eo/ei)はどれか。(第62回臨床検査技師国家試験pm95)
1.$A-\beta$
2.$\frac{1}{A+\beta}$
3.$\frac{1}{A-\beta}$
4.$\frac{A}{1+A\beta}$
5.$\frac{A}{1-A\beta}$
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解答:4
図は負帰還増幅回路です。この回路の入力と出力の関係は$$e_o=\frac{A}{1+A\beta}e_i$$であるため,eo/eiは
$$\frac{e_o}{e_i}=\frac{A}{1+A\beta}$$となります。
問8 入力電圧を50倍に増幅する増幅器Aと200倍に増幅する増幅器Bがある。増幅器AとBを直列に接続したときの全体の増幅度[dB]はどれか。(第63回臨床検査技師国家試験pm95)
1.40
2.60
3.80
4.100
5.120
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解答:3
増幅度(倍率)50倍と200倍を接続したので,全体の増幅度(倍率)は$50\times 200=10000$となります。これをdB表記にしてしまえばいいため,増幅度[dB]は$$A=20\,\mathrm{log}_{10}10000=20\,\mathrm{log}_{10}10^4=80\,\mathrm{dB}$$となります。
問9 差動増幅器の同相利得が-20dB,逆相利得が40dBのとき,同相除去比(CMRR)はどれか。(第53回臨床検査技師国家試験am81)
1.-60dB
2.-20dB
3.20dB
4.60dB
5.80dB
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解答:4
CMRRを求める際には,逆相信号と同相信号の増幅度を求める必要があります。しかしながら,今回の問題では,既に増幅度が計算されており,しかもご丁寧にdB表記されているため,CMRR[dB]=逆相信号増幅度[dB]-同相信号増幅度[dB]で求めることができます。よって,$$\,\mathrm{CMRR[dB]}=40-(-20)=60$$となります。
問10 差動増幅器の入力端子に振幅1mVの逆相信号と振幅2Vの同相信号が入力された。出力では逆相信号が2Vに振幅され,同相信号が100mVに減衰した。この差動増幅器の同相除去比(CMRR)[dB]はどれか。ただし,log102を0.3とする。(第29回臨床工学技士国家試験am55)
1.66
2.72
3.86
4.92
5.96
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解答:4
CMRRを求める際には,逆相信号と同相信号の増幅度を求める必要があります。
まずは,逆相信号の増幅度(倍率)Adを求めましょう。$$A_d=\frac{2}{1\,\mathrm{m}}=2000$$次に,同相信号の増幅度(倍率)Acを求めましょう。
$$A_c=\frac{100\,\mathrm{m}}{2}=0.05$$後は,CMRRの計算式にこれらを代入してあげればOKです。
$$\,\mathrm{CMRR[dB]}=20\,\mathrm{log}_{10}\frac{A_d}{A_c}=20\,\mathrm{log}_{10}\frac{2000}{0.05}=20\,\mathrm{log}_{10}40000=20\,\mathrm{log}_{10}(2^2\times 10^4)$$log10AB=log10A+log10Bより,
$$\,\mathrm{CMRR[dB]}=20(\,\mathrm{log}_{10}2^2+\,\mathrm{log}_{10}10^4)=20(2\,\mathrm{log}_{10}2+4)=20(2\times 0.3+4)=20\times 4.6=92$$よって,CMRR=92dBとなります。
計算が思いのほか大変なので,計算間違いをしないよう,慎重に計算しましょう。
問11 同相除去比(CMRR)が80dBの差動増幅器の入力に,振幅1mVの逆相信号を入力したところ,出力において逆相信号の振幅は1Vに増幅された。このとき,この増幅度の同相信号に対する利得[dB]はどれか。(第30回臨床工学技士国家試験am55)
1.-40
2.-20
3.0
4.20
5.40
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解答:2
CMRRを求める際には,逆相信号と同相信号の増幅度を求める必要があります。
これは言い換えると,同相信号の増幅度を求める際には,CMRRと逆相信号の増幅度[dB]が必要ということになります。
CMRRはすでに80dBとあるので,後は逆相信号の増幅度Ad[dB]を求めましょう。$$A_d=20\,\mathrm{log}_{10}\frac{1}{1m}=20\,\mathrm{log}_{10}1000=60\,\mathrm{dB}$$最後に,CMRR[dB]=逆相信号増幅度[dB]-同相信号増幅度[dB]の式を使うと$$80=60-A_c$$$$A_c=-20\,\mathrm[dB]$$となります。
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