国家試験で出題されるフィルタについて解説します!出題頻度はかなり高めなので対策は必須!?
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各見出しの重要度は,過去の臨床検査技師国家試験(第52回~最新回まで)の出題率や覚えやすさなどを考慮して主観で表記しています。国家試験を受ける学生以外の方は無視してかまいません。
フィルタ(濾波器)(重要度:★★★★★)
フィルタとは?
医療工学解説-周波数と雑音の「帯域幅」のところで,「帯域幅が広いほど雑音が大きくなる」という話をしました。
フィルタは,その帯域幅を強制的に狭め,雑音の発生を極力抑える機能を持つ回路です。
そのため,フィルタを使うことで,ある一定数以下or以上の周波数を持つ信号を除去することができます。
(フィルタによっては,特定の周波数を持つ信号のみを除去するものもあります)
フィルタの種類は主に4つありますが,国家試験では赤字で示す上2つのフィルタの特徴を覚えておけば十分です。
- 高域通過フィルタ(high pass filter:HPF)
特定の周波数よりも一定以下の信号を遮断。 - 低域通過フィルタ(low pass filter:LPF)
特定の周波数よりも一定以上の信号を遮断。 - 帯域通過フィルタ(band pass filter:BPF)
HPFとLPFを足したもの。
特定の周波数よりも一定以下および一定以上の信号を遮断する作用があります。
上図のBPFなら20Hz以下・700Hz以下の信号を遮断。 - 帯域除去フィルタ(band rejection filter:BRF)
1~3のフィルタと異なり,特定の周波数を持つ信号を遮断する作用があります。
band stop filterやband elimination filterと呼ばれることもあります。
上図のBRFなら60Hz付近の信号を遮断。
心電計や脳波計,筋電計には,商用交流(東日本なら50Hz・西日本なら60Hzの信号)が混入した際に,それを除去するためにハムフィルタと呼ばれる帯域除去フィルタが組み込まれています。ハムフィルタという名称とその作用は覚えておこう!おるてぃ
高域通過フィルタ(HPF:high pass filter)
名称の通り,高域=高周波の信号を通過させます。
言い換えると,特定の周波数よりも一定以下の信号を遮断する作用があるということです。
low cut filter(低域遮断フィルタ)や微分回路と呼ばれることもあります。
HPFは低周波の信号を遮断するため,フィルタをONにすると上図のように,低周波雑音が除去できます。ただし,高周波雑音は除去できません。
HPF(微分回路)は以下のような回路図となります。
回路図からCR回路と呼ばれることもあります。
※国試的にはHPF(高域通過フィルタ)=微分回路=CR回路。
この回路のコンデンサCの静電容量をC[F],抵抗Rの抵抗値をR[Ω]とすると,遮断周波数は以下のような式で求めることができます。
※HPFなのでこの値以下の周波数を持つ信号を遮断。
C:静電容量[F]
R:抵抗値[Ω]
なお,fの説明で遮断という言葉が出てきていますが,実際には出力が入力よりも-3dB($\frac{1}{\sqrt{2}}$)となる周波数がfとなります。
この式のうち,静電容量Cと抵抗値Rの積CRを時定数といいます。
低域通過フィルタ(LPF:low pass filter)
名称の通り,低域=低周波の信号を通過させます。
言い換えると,特定の周波数よりも一定以上の信号を遮断する作用があるということです。
high cut filter(高域遮断フィルタ)や積分回路と呼ばれることもあります。
LPFは高周波の信号を遮断するため,フィルタをONにすると上図のように,高周波雑音が除去できます。ただし,低周波雑音は除去できません。
上図のLPFなら700Hz以上の信号を遮断。
LPF(積分回路)は以下のような回路図となります。
回路図からRC回路と呼ばれることもあります。
※国試的にはLPF(低域通過フィルタ)=積分回路=RC回路。
この回路のコンデンサCの静電容量をC[F],抵抗Rの抵抗値をR[Ω]とすると,遮断周波数は以下のような式で求めることができます。
※LPFなのでこの値以上の周波数を持つ信号を遮断。
C:静電容量[F]
R:抵抗値[Ω]
過渡応答と時定数(重要度:★★★★★)
過渡応答
過渡応答とは,定常状態が別の定常状態に変化するまでの応答のことを言います。
実は,CR回路・RC回路ともに,入力にパルス波形を入力すると,出力波形は過渡応答を示して変わった波形となります。
CR回路の場合
CR回路の場合は,パルス波形(矩形波)を入力すると,最初に入力した電圧はそのまま出力されますが,時間経過によって少しずつ出力電圧が低下するという形を取ります。
RC回路の場合
RC回路の場合は,パルス波形(矩形波)を入力すると,最初は入力した電圧は出力されませんが,時間経過によって少しずつ出力電圧が上昇するという形を取ります。
時定数
時定数(τ:タウ)の基本
時定数(τ:タウ)とは,CR回路において,電圧を入力してから,出力電圧が入力電圧の$\frac{1}{e}\approx $0.37倍(37%)となるまでにかかる時間のことです。
(※本当はRC回路でも時定数という言葉は使われますが,国試ではCR回路側(HPF)のほうにのみ時定数という言葉を用いているので,時定数といわれた場合はCR回路(HPF)と考えてください)
CR回路に10Vの電圧を入力したときに,上のような出力波形が得られたとします。このとき,時定数は,入力電圧の37%=3.7Vとなるまでにかかる時間なので,4秒となります。
また,過渡応答のグラフだけでなく,回路からも時定数は求められます。
このCR回路の場合,静電容量Cと抵抗値Rの積CRが時定数となります。
なので,C=2μF,R=4MΩの場合,時定数τは
となります。
なお,時定数は低域遮断周波数を決定するため,時定数は基線動揺(ドリフト)の抑制に効果があります。
また,$CR=\tau$となるため,遮断周波数の式は以下のように表せます。
※HPFなのでこの値以下の周波数を持つ信号を遮断。
C:静電容量[F]
R:抵抗値[Ω]
τ:時定数[s]
「医療工学解説-周波数特性と雑音」では「時定数を覚えておけば,周波数のうち,低いほうは計算で出せる」と述べていますが,これがその計算式となります。
実際に心電計の低域遮断周波数を求めてみましょう。
生体計測機器 | 心電計 | 脳波計 | 筋電計 |
周波数特性[Hz] | 0.05~200 | 0.5~70 | 5~10000 |
時定数[s] | 3.2 | 0.3 | 0.03 |
心電計の時定数は3.2s。
これより,遮断周波数fは
国試では時定数はHPFにかかわるものなので,fは低域遮断周波数を表します。
よって,心電計は0.05Hz以下を切り捨てるため,周波数特性は0.05Hz~となります。(同様に計算すると,脳波計が0.5Hz,筋電図が5Hzとなるはずです)
時定数の変化による出力波形の変化
適切な時定数は各生体計測機器で決まっています。
生体計測機器 | 心電計 | 脳波計 | 筋電計 |
周波数特性[Hz] | 0.05~200 | 0.5~70 | 5~10000 |
時定数[s] | 3.2 | 0.3 | 0.03 |
この時定数を長くしたり短くしたりするとどうなるのでしょうか?
時定数が短い場合
時定数を短くするときは,基線の動揺(ドリフト)をいつも以上に抑制したいときです。
時定数を短くすると,遮断周波数fは大きくなります。
例えば,脳波計の時定数を0.3sから0.1sにしてみます。すると,
となります。
周波数特性が0.5~70Hzが1.6~70Hzとなるため,0.5~1.6Hzの周波数の信号も遮断されます。もし,1Hz程度の基線の動揺が入っていた場合,通常の時定数では除去できませんが,時定数を短くすると除去できるようになります。
ただし,その分,低周波の生体信号(心電図でいうところのT波・U波・ST部分,脳波でいうところの徐波)も抑制されてゆがみを生じてしまうため,よほどのことがない限りは決められた時定数で測定します。
時定数が長い場合
時定数を長くするときは,低周波の生体信号をいつも以上に計測したいときです。
時定数を長くすると,遮断周波数fは小さくなります。
例えば,脳波計の時定数を0.3sから1.0sにしてみます。すると,
となります。
周波数特性が0.5~70Hzが0.16~70Hzとなるため,通常では遮断されていた0.16~0.5Hzの周波数の信号もとらえることができます。しかしながら,低周波の雑音も入ってくるうえ,電源を入れてから記録が安定するまでの時間が長くなるため,よほどのことがない限りは決められた時定数で測定します。
練習問題
問1 図のRC回路で正しいのはどれか。ただし,Rは抵抗,Cはコンデンサである。(第56回臨床検査技師国家試験am96)
1.入力信号の微分波形を出力信号として取り出すことができる。
2.高域通過フィルタとして使用することができる。
3.出力電圧の位相は入力信号に対して送れる。
4.回路の時定数はRとCの和で表される。
5.回路の遮断周波数はCに比例する。
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解答:3
この問題は消去法で解きましょう。
1.誤り。RC回路の別名は積分回路。つまり,入力信号の積分波形を出力信号として取り出します。
2.誤り。RC回路=LPF(低域通過フィルタ)。HPF(高域通過フィルタ)として利用できるのはCR回路(微分回路)です。
3.正しい。ただ,消去法で解けるので,このことを覚えておく必要はありません。
4.誤り。時定数τは$\tau =CR$なのでRとCの積で表せます。
5.誤り。遮断周波数は$f=\frac{1}{2\pi CR}$で表せます。この式より,Cが増加するとfは減少するため,fとCは反比例の関係となります。
問2 図の回路で正しいのはどれか。(第63回臨床検査技師国家試験am96)
1.低域通過回路として機能する。
2.回路の時定数はCとRの和で表される。
3.矩形波を入力すると積分波形が出力される。
4.Cの容量が大きいほど遮断周波数は高くなる。
5.遮断周波数では出力電圧は入力電圧の$\frac{1}{\sqrt{2}}$となる。
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解答:5
1.誤り。この回路はCR回路=HPF(高域通過フィルタ)です。つまり,高域通過回路として機能します。
2.誤り。時定数τは$\tau =CR$なのでRとCの積で表せます。
3.誤り。CR回路の別名は微分回路。つまり,入力信号の微分波形を出力信号として取り出します。
4.誤り。遮断周波数は$f=\frac{1}{2\pi CR}$で表せます。この式より,Cが増加するとfは減少=遮断周波数は低くなります。
5.正しい。出力が入力よりも-3dB(=$\frac{1}{\sqrt{2}}$)となる周波数を遮断周波数として定義しています。(この考え方は帯域幅を決定するときと同じです)
問3 図の入出力関係となる回路はどれか。(第64回臨床検査技師国家試験am96)
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解答:2
入出力関係のグラフを見ると,パルス波形(矩形波)を入力した場合,最初に入力した電圧はそのまま出力されますが,時間経過によって少しずつ出力電圧が低下するという形(微分波形)を取っています。
これはCR回路(微分回路)で出力される波形であるため,後は選択肢からCR回路を選択すればOKです。よって,答えは2となります。
※RC回路(積分回路)と間違えないように注意!
問4 増幅器の時定数で誤っているのはどれか。(第52回臨床検査技師国家試験am80)
1.微分(CR)回路で決められる。
2.低域遮断周波数が規定される。
3.過渡応答に関与する。
4.基線動揺の抑制に効果がある。
5.脳波計では通常3秒である。
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解答:5
1.正しい。時定数はCR回路の静電容量Cと抵抗値Rの積で求められます。
2.正しい。国家試験の場合,時定数はHPF(微分回路)のことを指します。HPFでは,時定数により低域遮断周波数が規定されます。
3.正しい。時定数を変化させると過渡応答のグラフの形が変化するため,時定数は過渡応答に関与するといえます。
4.正しい。時定数は低域遮断周波数を決定するため,基線動揺(ドリフト)の抑制に効果があります。
5.誤り。脳波計の時定数は通常0.3sです。
問5 心電計の時定数の特徴で正しいのはどれか。2つ選べ。(第55回臨床検査技師国家試験pm97)
1.基線動揺を防止する。
2.直流信号を通過する。
3.標準で3.2s以上である。
4.100Hzの信号を遮断する。
5.出力電圧に対する過渡応答を表す。
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解答:1・3
1.正しい。時定数は低域遮断周波数を決定するため,基線動揺(ドリフト)の抑制に効果があります。
2.誤り。時定数(3.2s)による低域遮断周波数は0.05Hz。よって,0.05Hz以下の信号が全て遮断されるため,直流信号(=0Hz)は遮断されます。
3.正しい。心電計の時定数は3.2s以上です。
4.誤り。時定数(3.2s)による低域遮断周波数は0.05Hz。よって,0.05Hz以上の信号は通過するため,100Hzの信号は遮断されずに通過します。
5.誤り。時定数の過渡応答は入力信号に対する出力信号の応答を表します。
問6 増幅器の時定数で誤っているのはどれか。(第57回臨床検査技師国家試験am96)
1.回路の抵抗値と静電容量の積に等しい。
2.低域遮断周波数が規定される。
3.基線動揺の抑制に効果がある。
4.商用交流雑音を軽減させる。
5.過渡応答に関与する。
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解答:4
1.正しい。時定数はCR回路の静電容量Cと抵抗値Rの積で求められます。
2.正しい。国家試験の場合,時定数はHPF(微分回路)のことを指します。HPFでは,時定数により低域遮断周波数が規定されます。
3.正しい。時定数は低域遮断周波数を決定するため,基線動揺(ドリフト)の抑制に効果があります。
4.誤り。時定数(3.2s)による低域遮断周波数は0.05Hz。商用交流雑音は基本的に50 or 60Hzの信号ですので,遮断されずに通過します。よって,商用交流雑音は軽減できません。(商用交流雑音を軽減するためにはハムフィルタを利用します)
5.正しい。時定数を変化させると過渡応答のグラフの形が変化するため,時定数は過渡応答に関与するといえます。
問7 CR結合回路(微分回路)に2Vのステップ電圧を入力したときの出力波形を図に示す。この回路の時定数[ms]はどれか。(第61回臨床検査技師国家試験pm97)
1.2
2.5
3.10
4.15
5.20
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解答:2
時定数は電圧を入力してから,出力電圧が入力電圧の0.37倍(37%)となるまでにかかる時間のことです。
今回は入力電圧が2Vなので,この37%を求めましょう。
V=2×0.37=0.74
後は,グラフから,0.74Vとなるまでにかかる時間を求めればOKです。
よって,答えは5msとなります。
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