国家試験で出題される免疫組織化学染色に用いられるマーカーについて解説します!数が非常に多いですが,頻出なので必ず押さえておきたいところ。
各見出しの重要度は,過去の臨床検査技師国家試験(第52回~最新回まで)の出題率や覚えやすさなどを考慮して主観で表記しています。国家試験を受ける学生以外の方は無視してかまいません。
マーカーの種類(重要度:★★☆☆☆)
覚えておきたいマーカーの種類とマーカーは以下の通りです。
腫瘍マーカー
病理の分野で出題されやすいもののみ掲載しています。
それ以外の腫瘍マーカーについては免疫分野でまとめています。
- CEA
- AFP
- CA125
- hCG
細胞骨格蛋白
- サイトケラチン
- ビメンチン
- デスミン
- α-SMA
- GFAP
鑑別診断に有用なマーカー
- S100蛋白
- NSE
- CD3
- CD20
細胞増殖マーカー・悪性度マーカー
- Ki67
- p53
女性ホルモン受容体
- ER
- PgR
膜受容体型チロシンキナーゼ
- HER2
- EGFR
- c-kit
- ALK
腫瘍マーカー(重要度:★★★★★)
CEA(carcinoembryonic antigen:癌胎児性抗原)
局在部位
- 細胞質/細胞膜
陽性疾患
- 腺癌全般
AFP(alpha fetoprotein:α-フェトプロテイン)
局在部位
- 細胞質
陽性疾患
- 肝細胞癌
- 卵黄嚢腫瘍(胚細胞腫瘍の1つ)
CA125(carbohydrate antigen 125)
局在部位
- 細胞質/細胞膜
陽性疾患
- 漿液性卵巣癌
hCG(human chorionic gonadotropin:ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
局在部位
- 細胞質
陽性疾患
- 絨毛性腫瘍
細胞骨格蛋白(重要度:★☆☆☆☆)
サイトケラチン(cytokeratin)
局在部位
- 細胞質(上皮細胞に発現)
陽性疾患
- 癌腫
ビメンチン(vimentin)
局在部位
- 細胞質(非上皮細胞に発現)
陽性疾患
- 肉腫
デスミン(desmin)
局在部位
- 細胞質(筋細胞に発現)
陽性疾患
- 横紋筋肉腫(補助診断)
- 平滑筋肉腫(補助診断)
α-SMA(alpha smooth muscle actin)
局在部位
- 細胞質(平滑筋細胞に発現)
陽性疾患
- 平滑筋肉腫(補助診断)
GFAP(glial fibrillary acidic protein)
局在部位
- 細胞質(神経膠細胞に発現)
陽性疾患
- 神経膠腫(補助診断)
鑑別診断に有用なマーカー(重要度:★★★★☆)
S100蛋白
局在部位
- 細胞質
陽性疾患
- 悪性黒色腫
- 神経性腫瘍など
NSE(neuron-specific enolase:神経特異エノラーゼ)
局在部位
- 細胞質
陽性疾患
- 神経内分泌腫瘍(肺小細胞癌など)
CD3
局在部位
- 細胞膜
陽性疾患
- T細胞性腫瘍
CD20
局在部位
- 細胞膜
陽性疾患
- B細胞性腫瘍
細胞増殖マーカー・悪性度マーカー(重要度:★★★★★)
Ki67
局在部位
- 核
陽性疾患
- 乳癌など(増殖マーカーであり,予後の予測に用いられる)
p53
局在部位
- 核
陽性疾患
- 様々な癌など(癌抑制遺伝子)
びまん性に染まっていれば悪性を示唆。
女性ホルモン受容体(重要度:★★★★★)
ER(estrogen receptor:エストロゲン受容体)
局在部位
- 核
陽性疾患
- 乳癌
- 子宮体癌
どちらも陽性所見が得られた場合はホルモン療法の適応。
PgR(progesterone receptor:プロゲステロン受容体)
局在部位
- 核
陽性疾患
- 乳癌
- 子宮体癌
どちらも陽性所見が得られた場合はホルモン療法の適応。
膜受容体型チロシンキナーゼ(重要度:★★★★★)
膜受容体型チロシンキナーゼに属するマーカーは,腫瘍細胞に発現していれば分子標的治療の適応となります。
HER2(human epidermal growth factor receptor)
局在部位
- 細胞膜
陽性疾患
- 乳癌
- 胃癌
EGFR(epidermal growth factor receptor:上皮成長因子受容体)
局在部位
- 細胞膜
陽性疾患
- 様々な癌
c-kit(CD117)
局在部位
- 細胞質/細胞膜
陽性疾患
- 消化管間質腫瘍(GIST)
ALK(anaplastic lymphoma kinase)
局在部位
- 細胞質
陽性疾患
- 未分化大細胞型リンパ腫
- 肺腺癌の一部(ALK融合遺伝子が認められる)
遺伝子異常を見ることが可能。
まとめ
練習問題
問1 卵巣腫瘍と腫瘍マーカーの組み合わせで正しいのはどれか。(第55回臨床検査技師国家試験pm52)
1.奇形腫=PSA
2.莢膜細胞腫=CEA
3.絨毛癌=AFP
4.漿液性腺癌=CA125
5.卵黄嚢腫瘍=hCG
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解答:4
1.PSAは前立腺癌の腫瘍マーカーです。
2.莢膜細胞腫は腺癌ではないので,CEAは陰性です。
3.絨毛癌はhCGです。卵黄嚢腫瘍と混同しないように注意!
4.正しい。
5.卵黄嚢腫瘍はAFPです。絨毛癌と混同しないように注意!
問2 疾患と免疫組織化学染色で検討すべき抗原の組み合わせで正しいのはどれか。2つ選べ。(第58回臨床検査技師国家試験pm55)
1.B細胞リンパ腫=CD20
2.胃腺癌=c-kit
3.骨肉腫=PSA
4.食道扁平上皮癌=AFP
5.大腸癌=CEA
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解答:1・5
1.正しい。
2.c-kitは消化管間質腫瘍(GIST)で陽性となります。
3.PSAは前立腺癌の腫瘍マーカーです。
4.AFPは肝細胞癌や卵黄嚢腫瘍で陽性となります。
5.正しい。
問3 乳癌組織の免疫組織化学染色標本を示す。使用された抗体はどれか。(第59回臨床検査技師国家試験pm55)
1.抗Ki-67抗体
2.抗HER2/neu抗体
3.抗p53抗体
4.抗エストロゲンレセプター(ER)抗体
5.抗プロゲステロンレセプター(PgR)抗体
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解答:2
解き方がわからないと手も足も出ない問題です。
この問題で重要なのは陽性部位です。
細胞の周囲が陽性となっていることから,選択肢中考えられるのは抗HER2/neu抗体のみです。
※他は全て核が染まります。
問4 乳癌組織の免疫組織化学染色標本を示す。この抗体が判定するのはどれか。(第59回臨床検査技師国家試験pm56)
1.組織型
2.増殖能
3.間質浸潤
4.治療薬適応
5.リンパ管侵襲
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解答:4
前問より,使われた抗体は抗HER2抗体と分かりました。
HER2などの膜受容体型チロシンキナーゼは,腫瘍細胞に発現していれば分子標的治療の適応となります。よって,答えは治療薬適応になります。
問5 免疫組織化学染色で核が陽性になるのはどれか。2つ選べ。(第61回臨床検査技師国家試験pm55)
1.CD3
2.CEA
3.HER2
4.Ki67
5.p53
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解答:4・5
マーカーのうち,Ki67・p53・ER・PgRの4つは核に局在します。
問6 免疫組織化学的マーカーと疾患の組み合わせで正しいのはどれか。(第63回臨床検査技師国家試験am54)
1.AFP=膵癌
2.CA125=胆嚢癌
3.CEA=骨肉腫
4.c-kit=髄芽腫
5.S100蛋白=悪性黒色腫
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解答:5
1.AFPは肝細胞癌や卵黄嚢腫瘍で陽性となります。
2.CA125は漿液性卵巣癌で陽性となります。
3.CEAは腺癌で陽性となります。骨肉腫は非上皮性腫瘍であり,CEAは陽性とはなりません。
4.c-kitは消化管間質腫瘍(GIST)で陽性となります。
5.正しい。
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