第65回臨床検査技師国家試験(PM81~100)の解説です。
【更新履歴】
2021.12.27
・問82・83の解説(抗核抗体)を更新しました。
第65回臨技国試のPM問81~100の解説です。
難易度は主観で1~10の10段階でつけています。
1:超簡単
2~3:簡単
4~5:普通
6~7:やや難問
8~9:難問
10:超難問
第65回臨技国試についてをまとめたページもありますので,まだ見ていない方はぜひそちらもご参照ください。
問題の出典:厚生労働省ホームページ 第65回臨床検査技師国家試験の問題および正答について 午後問題(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp190415-07b_01.pdf)
臨床免疫学(PM79~89)
PM 問81
解答:4
梅毒の問題はたまに出題されますが,この問題は難問です。
梅毒に罹患すると,由来の異なる2種類の抗体が産生されます。
①抗カルジオリピン抗体
②抗TP抗体
①はSTS法で,②はTP抗原を用いてそれぞれ検出します。
<梅毒検査>
抗原 | 検査法 | 特徴 | 備考 | |
梅毒血清反応(STS) | カルジオリピン | ・Wassermann反応 ・ガラス板法 ・RPRカードテスト | ・梅毒感染なしでも陽性となることがある。 =生物学的偽陽性(BFP) ・治療効果判定に用いられる。 | ・ガラス板法は顕微鏡使用。 被検血清は不活化。 ・RPRカードテストは肉眼判定。 被検血清の不活化不要。 |
抗TP抗体 | TP抗原 | ・TPHA ・TPPA | ・梅毒に特異的 ・感染初期は陽性とならない。 ・治療後も陽性持続。 | ・TPHAにて未感作赤血球に凝集+ →異好抗体 |
・FTA-ABS | ・特異性が高い。 ・初期の梅毒を診断可能。 | ・間接蛍光抗体法を原理とする。 |
<STS法・TPPA(TPHA)法・FTA-ABS法の結果解釈>
STS法 | TPPA・TPHA法 | FTA-ABS法 | 判定・解釈 |
- | - | 実施しない | 梅毒感染なし |
+ | - | + | 梅毒感染初期 |
+ | - | - | 生物学的偽陽性(BFP) |
+ | + | 実施しない | 梅毒感染 |
- | + | 実施しない | 梅毒治療後 |
※表はスクロールできます。
1~3.誤り。これらで検出できる抗体はIgGであり,これは母親の胎盤を通過したものの可能性もあるため(=母体由来IgG),陽性であったとしても先天梅毒とは断定できません。
4.正しい。IgMは胎盤を通過しないため,これが陽性であれば胎児への感染が示唆されます。
5.誤り。疾患の徴候がなく,血清抗体価が低値または陰性の新生児では,梅毒の可能性は低いとみなされます。
PM 問82
解答:2
抗核抗体の問題は出題頻度が高く(52~64回の国家試験において53pm63・54am83・54pm83・55am81・56am86・58am85・60pm84・61pm83・62pm84の9回出題),かつ対策が簡単なので確実に対策しておきたいところです。
以下は抗核抗体の典型問題,染色パターンについてまとめています。まずはこれを確実に覚えましょう。
※著作権等の問題から自作のイラストを用いています。実際の染色像が気になる方は各自で検索してください。
※抗核抗体以外にも,細胞質に関連する抗体(cytoplasmic型)も検出できますが,この抗体は抗核抗体ではないためここでは省略しています。
画像では核の中がところどころ黒く抜けていることがわかります。これより,Speckled型(斑紋型)が考えられます。
PM 問83
解答:5
抗核抗体の染色パターンに関連する抗体,および関連疾患の問題もよく出題されます。こちらも表を使って対策を。
前問で抗核抗体の染色パターンはspeckled型と分かりました。後は,これに合致する抗体を選択すればOKです。
1.誤り。peripheral型です。
2.誤り。nucleolar型です。
3.誤り。homogeneous型です。
4.誤り。cytoplasmic型です。
5.正しい。speckled型です。
PM 問84
解答:4
過去の出題がほとんどなく,対策しづらい難問。余裕のない人はスルー推奨です。
1.誤り。ポリエチレングリコールを用います。
2.誤り。ヌクレオチド(核酸)合成を阻害するのはアミノプテリンです。
3.誤り。アミノプテリンです。
4.正しい。
5.誤り。腫瘍細胞ではないため,時間経過で自然に死滅します。
PM 問85
解答:2
補体基礎(各補体成分の特徴と補体の不活化)に関しては68am80で解説してあります。
<補体経路>
以下の3種類があります。
①古典経路
②副経路(第2経路)
③レクチン経路
【関与する補体活性化因子】
C1 | C2 | C3 | C4 | C5~C9 | B・D | Ca | Mg | 免疫系 | |
古典経路 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 獲得 | |
副経路 | ○ | ○ | ○ | ○ | 自然 | ||||
レクチン経路 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 自然 |
【関与する補体制御因子】
C1INH | C4結合蛋白 | DAF | CR1 | membrane cofactor protein | S蛋白 | CD59 | I因子 | H因子 | |
古典経路 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
副経路 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1・3~5.正しい。
2.誤り。自然免疫に関係する補体経路は副経路およびレクチン経路(古典経路の自然免疫ver)です。古典経路は獲得免疫系に関係する補体経路です。
PM 問86
解答:2
こちらも難問。免疫電気泳動において,分離される原理を知っておかないとまず解けません。
免疫電気泳動において,IgDとIgEは通常みられないので,これは選択肢から消してOKです。となれば,残るは1~3。このうち,IgGは矢印のやや左側の長い線であるため,これも消去。後は,IgMとIgAの比較ですが,ここで必要なのは分子量。
免疫電気泳動は,分子量の大きいものが血清側(試料孔側,画像の○の部分)に沈降線が現れます。よって,矢印の左側にある線がIgM,矢印の線がIgAとなりますので,2が正解です。
<血清蛋白電気泳動の分画>
血清蛋白分画 | 主な物質 | 基準値[%] |
アルブミンより+側 (PreAlb) | ・プレアルブミン (トランスサイレチン) | - |
アルブミン | ・アルブミン | 60~70 |
α1 | ・α1-アンチトリプシン ・α1-酸性糖蛋白 ・HDL | 2~3 |
α2 | ・α2-マクログロブリン ・ハプトグロビン ・セルロプラスミン | 5~10 |
β | ・トランスフェリン ・ヘモペキシン ・LDL/VLDL ・C3/C4 | 7~11 |
γ | ・免疫グロブリン(Ig) ・CRP | 10~20 |
①より左:プレアルブミン
①:アルブミン
②:α1
③:α2
④:β
⑤:γ
1・3~5.誤り。
2.正しい。
PM 問87
解答:1
1.正しい。細菌が増殖すると血液の色が黒色に変化します(日本赤十字社のサイトを参照するとわかりやすいです)。そのため,外観の検査が有用となります。
2.誤り。輸血後GVHDの予防に効果があります。
3.誤り。輸血後肝炎(HBV・HCV感染)の予防に効果があります。
4.誤り。血小板輸血不応や輸血関連急性肺障害(TRALI)の予防に効果があります。
5.誤り。アレルギー性輸血副作用の予防に効果があります。
PM 問88
解答:2
52~64回の過去13年間1度も出題されたことのない問題なので,市販の問題集等で対策していない人にとっては勘で解かざるを得ない問題です。そういった意味で,難易度は10に設定させていただきました。
各血液製剤の血液型とラベルの色の組み合わせは以下の通りです。
・A=黄色
・B=白色
・O=水色(青色)
・AB=桃色
ただ,覚える必要があるかと言われれば微妙です。(今後問われる可能性は否定できませんが,これを覚えるくらいなら他を優先したい。余裕のある人向け)
1・3~5.誤り。
2.正しい。
PM 問89
解答:4・5
直接Coombs試験・間接Coombs試験をしっかりと理解していないとかなり難しい問題です。
<Coombs試験>
直接:患者赤血球に結合している抗体を調べる。
間接:患者血清に存在する抗体を調べる。
赤血球 | 血清 | 陰性検証 | 対象 | |
直接Coombs試験 | 患者 | 不要 | IgG感作赤血球 | ・AIHA検索 ・血液型不適合妊娠(胎児側) ・赤血球感作蛋白の同定 |
間接Coombs試験 | パネル (時に+患者) | 患者 | IgG感作赤血球 | ・不規則抗体検査 ・交差適合試験 ・血液型不適合妊娠(母親側) ・抗体乖離試験の抗体特異性同定 |
※表はスクロールできます。
1.誤り。どちらも不要です。
2・3.誤り。間接のみ必要です。
4.正しい。陰性の反応となったときに,それが本当に陰性かどうかを確認するために用いられます。
5.正しい。間接では必要ないように思われますが,間接Coombsによる不規則抗体検査では自己対照(被検者赤血球+被検者血清の反応)を置く必要があるため,こちらも必要になります。
公衆衛生学(PM90~94)
PM 問90
解答:5
今年の公衆衛生学分野の中では難問です。
1.誤り。94.6万人であり,100万人を切っています。
2.誤り。粗死亡率は増加傾向です。(年齢調整死亡率は減少傾向)
3.誤り。合計特殊出生率(粗再生産率)>総再生産率≧純再生産率です。
4.誤り。1.43であり,2019年でも1.4をギリギリキープしています。
5.正しい。男性4.7,女性2.5(人口1000人あたり)であり,女性が男性の約1/2です。
PM 問91
解答:3・5
国民生活基礎調査で有訴・通院,患者調査で受療・平均在院日数を調べることができます。
PM 問92
解答:4
1~3・5.正しい。
2.誤り。尿中フェノールはベンゼン中毒を疑った場合に測定します。マンガンの場合は尿中にマンガンが出現します。
PM 問93
解答:1・4
(1)必須項目
①質問票
②身体測定
③身体診察
④血圧測定
⑤脂質検査(LDL・HDL・中性脂肪)
⑥血糖検査(空腹時血糖 or HbA1c)
⑦肝機能検査(AST・ALT・γ-GT)
⑧検尿(尿糖・尿蛋白)
(2)詳細な検診項目
※医師が必要と認めた場合に実施
①心電図
②眼底検査
③貧血検査(RBC・Hb・Ht)
1・4.正しい。
2・3・5.誤り。
PM 問94
解答:5
1.誤り。40歳以上強制加入です。
2.誤り。医療保険制度は介護保険を含みません。
3.誤り。保険料(加入者が支払うお金)が50%で最も多いです。
4.誤り。現物給付(サービスの提供)です。
5.正しい。国民健康保険は被用者保険には含まれない点に注意です!
医用工学概論(PM95~100)
PM 問95
解答:3
1.誤り。データ等々を一定のルールに基づいて変形し,利用しやすくすることです。 AD変換に関係しません。
2.誤り。製品・資材などの種類や規格を,標準に合わせて整えることです。AD変換に関係しません。
3.正しい。AD変換の第1段階です。
4.誤り。標本化で得られた離散時間信号のようなアナログデータをデジタルデータなどの離散的な値で近似的に表すことです。AD変換の第2段階です。
5.誤り。具体的な事項を統計,事務やコンピュータ処理で取り扱い易くするため,これらを記号で表現できるよう体系化することです。AD変換に関係しません。
PM 問96
解答:3・4
各トランスデューサの名称と変換を覚えておけば難なく解けます。ただ,暗記だときついので,ゴロを使って覚えましょう。
ストレス:ストレンゲージ
ポテン:ポテンショメータ
変に痛ぇ:変位→抵抗
「さあどうしよう,変装?」
さあどうしよう:差動トランス
変装:変位→相互インダクタンス
「CDこうてぇ~(買って~)」
CD:CdS・CdSe
こうてぇ~:光→抵抗
「ミスった音程」
ミスった:サーミスタ
音程:温度→抵抗
「夏季は暑いので/,高貴なコーデの人が/熱で起きるのを/阻止する直伝の技」
※一文をまるまる覚えるのではなく,スラッシュ(/)で区切ると覚えやすい。
夏季は:力→起電力
暑いので:圧電素子
高貴:光→起電力
コーデ:光電池
熱で:熱電対
起きるのを:温度→起電力
阻止する:ホール素子
直伝:磁場→起電力
※物理量を起電力に変換するもの。
「蚊でdieする/酷ぇフォト/マジで好き!」
※一文をまるまる覚えるのではなく,スラッシュ(/)で区切ると覚えやすい。
蚊で:力→電流
dieする:感圧ダイオード
酷ぇ:光→電流
フォト:フォトダイオード・フォトトランジスタ
マジで:磁場→電流
好き:SQUID磁束計
※物理量を電流に変換するもの。
1.誤り。変位→抵抗。磁場は関係ありません。
2.誤り。温度→抵抗。磁場は関係ありません。
3.正しい。磁場→起電力。
4.正しい。磁場→電流。
5.誤り。光→抵抗。磁場は関係ありません。
PM 問97
解答:4
中学生の数学の問題。理系であれば余裕のはずです。
塩基が1つのときは4通り。
2つの時は,1番目と2番目でそれぞれ4通りずつあるため,42=16。
3つの時は,1~3番目でそれぞれ4通りずつあるため,43=64。よって,4が正解です。
1~3・5.誤り。
4.正しい。
PM 問98
解答:2
1.誤り。処理を表します。
2.正しい。処理の記号に縦線が2本入っているのが定義済み処理です。
3.誤り。?。覚えなくてよい。
4.誤り。判断を表します。
5.誤り。内部記憶を表します。
PM 問99
解答:5
過去問では対策がほぼできない難問です。余裕のある人は覚えておくといいでしょう。
一次利用とは,患者さんに直接関係するものです。
・診療そのものへの利用
・本人や家族への説明
・スタッフ間の情報共有,カルテ閲覧
・術前カンファレンス など
二次利用とは,患者さん自身に直接は関係ないものです。
・病院の経営
・行政への届出(がん登録など)
・公衆衛生(感染症など)
・研究,教育
・症例報告 など
1~4.誤り。全て二次利用です。
5.正しい。患者に還元しているため,一次利用です。
PM 問100
解答:1
イオン交換法は逆浸透法よりもイオン類の除去に優れています。よって,1が正解です。
1.正しい。
2~4.誤り。微粒子や細菌,有機物の除去は逆浸透膜のほうが優れています。
5.誤り。逆浸透膜はエンドトキシンも通さないため,イオン交換法よりも取り除くことができます。ただ,完全には取り除けません。
解説終わり
解説終了までかなりの長期間を要しましたが,これにて65回の国試解説は終了です。
覚えておきたいところ等はきっちりまとめたつもりなので,間違えてしまった問題,あるいは勘で当たってはいたものの実際は全く分からなかった問題等は解説を参考にして勉強してください。
また,解説を読んでもわからないところは,ぜひ自分で調べてみてください。勉強は受身であるよりも,自分から学ぶほうが何倍も糧になりますので……。
この解説記事が一人でも多くの人にためになることを切に願っております。
コメント
いつも丁寧な解説ありがとうございます。
PM86について質問がありコメントさせていただきました。
免疫電気泳動は,分子量の大きいものが血清側(試料孔側,画像の○の部分)に沈降線が現れます。と書いてありますが、正しくは分子量の小さいものが抗血清側に移動するのではないでしょうか?また血清は○の部分ではなく、両端に入れられるものではないのでしょうか?間違っていたら大変申し訳ありません。
86回の解説楽しみにしております。
コメントありがとうございます。
「分子量の大きいものが血清側(真ん中)に現れる」ということは,言い換えると「分子量の小さいものは抗血清側(両端)に現れる(=移動する)」となるので,これで問題ないと思います。
また,○は「塗布孔」といい,ここに被検血清を入れます。両端の溝には抗血清を入れます。これに関しては,免疫電気泳動の原理を説明している以下のサイトを参考にするとわかりやすいと思います。
http://zen.shinshu-u.ac.jp/modules/0096000003/main/02.html
お役に立てたら光栄です。