第65回臨床検査技師国家試験(PM41~60)の解説です。
第65回臨技国試のPM問41~60の解説です。
難易度は主観で1~10の10段階でつけています。
1:超簡単
2~3:簡単
4~5:普通
6~7:やや難問
8~9:難問
10:超難問
第65回臨技国試についてをまとめたページもありますので,まだ見ていない方はぜひそちらもご参照ください。
問題の出典:厚生労働省ホームページ 第65回臨床検査技師国家試験の問題および正答について 午後問題(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp190415-07b_01.pdf)
臨床化学(PM29~44)
PM 問41
解答:4
バゾプレシン,別名ADH(抗利尿ホルモン)は,その名の通り尿排泄を抑制するホルモンです。
つまり,これが低下するということは,尿が出過ぎてしまう=尿崩症が考えられます。
ここまでは簡単です……が,問題は,尿崩症には中枢性と腎性の2種類があるということ。ただ,通常「尿崩症」といえば,中枢性尿崩症を指しますので,4が正解となります。
(1)産生臓器
・下垂体後葉
(2)主な作用
・尿量↓
・血圧↑
(3)増加する疾患
・脱水症
・SIADH(ADH不適合分泌症候群)
(4)減少する疾患
・中枢性尿崩症
(一般的に「尿崩症」といえばこれ)
1.誤り。循環血液量↓のため,ADH分泌は亢進します。
3.誤り。ADHが作用する腎臓自体に障害があるため,結果的に尿崩症となるものです。ADHの分泌自体には障害がありません。
4.正しい。ADHの分泌が低下するために起こるスタンダードな尿崩症。基本的に「尿崩症」といえばこれ。
5.誤り。ADH分泌が亢進する病気。詳細は以下の記事を参照してください。
PM 問42
解答:3
応用力が試される問題です。
低栄養状態ということは,十分に食事を取れていないということです。
食事がとれていないとどうなるでしょうか。食事由来のものが少なくなります。その1つが,血糖です。
血糖が少なくなると,人は低血糖状態を補うために血糖を増加させるホルモン(グルカゴンや成長ホルモンなど)を放出します。この作用によって,貯蔵しているグリコーゲンがグルコースに代わり,血糖値を維持することができます。
さらに低栄養状態が続くと,グリコーゲンの貯蔵が不足し,グルコースから解糖系を使ってATPを産生することが難しくなるため,脂肪酸からATPを産生するようになります。これが脂肪酸β酸化です。
1・5.誤り。
2・4.誤り。これらは栄養状態を反映し,低栄養状態で低下することを覚えておきましょう。
3.正しい。上記の通りです。
PM 問43
解答:4・5
黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),甲状腺刺激ホルモン(TSH)は糖蛋白ホルモンです。故に,4と5が正解です。
PM 問44
解答:5
60pm41のプール問題。選択肢の並びは異なりますが,選択肢自体は過去問と同一です。
レニンが増減する疾患を暗記していれば楽勝ですが,暗記せずとも,ホルモンの作用を考えればおのずと答えは導き出せます。
まず,以下の表のうち,産生臓器と作用は必ず覚えましょう。それ以外は,暗記に自信があれば,以下の表を(何も考えず)そのまま覚えましょう。
産生ホルモン名 | 産生臓器 | 詳細 |
レニン | 腎臓 | 傍糸球体細胞 |
主な作用 | 増加する疾患 | 減少する疾患 |
アンギオテンシノーゲンを アンギオテンシンⅠに変換 →それによる血圧↑ | ・Addison病 ・肝硬変 ・Bartter症候群 ・脱水 ・利尿薬投与 など | ・原発性アルドステロン症 (Conn症候群) ・偽性アルドステロン症 など |
暗記が得意でない場合は,以下に示すレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を簡単でいいので覚えて,選択肢の解説のように論理的に考えるとスムーズに答えを導き出せます。
詳細についてはホルモンを解説した記事を参照。
1.誤り。脱水状態では循環血液量が低下します。すると,ヒトは循環血液量を増加させようと,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を活性化させます。その結果,レニン分泌が増加し,活性が増加します。
2.誤り。Addison病ではコルチゾールが低下します。コルチゾールはアルドステロン様作用(Na↑・K↓)を有するため,コルチゾール低下によりNa↓・K↑となります。すると,循環血液量が低下するため,ヒトは循環血液量を増加させようと,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を活性化させます。その結果,レニン分泌が増加し,活性が増加します。
3.誤り。利尿薬服用では,尿排泄が促進することで,体内の水分量が低下します。体内の水分量が低下すると,脱水状態と同様の状態になるため,循環血液量が低下します。すると,ヒトは循環血液量を増加させようと,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を活性化させます。その結果,レニン分泌が増加し,活性が増加します。
4.誤り。腎血管性高血圧とは,腎血流が何らかの原因で低下した結果,全身が低血圧状態にあると勘違いした腎臓の傍糸球体装置が血圧上昇ホルモンであるレニンを分泌する病気です。よって,レニン活性は上昇します。
5.正しい。アルドステロン産生亢進により,循環血液量が増加します。これにより,negative feedbackがかかり,レニン分泌が減少し,活性が低下します。
病理組織細胞学(PM45~58)
PM 問45
解答:1
HER2は乳癌や胃癌で陽性となることがあり,陽性であれば分子標的治療の適応となります。よって,答えは1です。
1.正しい。
2.誤り。EGFRなどが用いられます。
3.誤り。BRAFなどが用いられます。また,分子標的治療の決定には用いられませんが,S100蛋白も悪性黒色腫で陽性となります。
4.誤り。EGFRやALKなどが用いられます。
5.誤り。c-kitが用いられます。
PM 問46
解答:2
電子顕微鏡の問題もほぼ毎年出題されます。対策は忘れずに。
(1)目的
・細胞内部の構造を観察する。
(特に細胞内小器官や神経内分泌顆粒など)
・糸球体腎炎の診断
(2)標本作製手順と用いる試薬等
- 細切:安全カミソリ
- 固定:グルタルアルデヒド(前固定)
オスミウム酸(四酸化オスミウム,後固定) - 脱水:上昇アルコール系列+無水アルコール(エタノールなど)
- 置換:プロピレンオキシド(酸化プロピレン)
- 包埋:エポキシ樹脂(エポン樹脂)
- 超薄切:ウルトラミクロトーム
(ガラスナイフで準超薄切片→ダイヤモンドナイフで超薄切片) - 電子染色:酢酸ウラン+クエン酸鉛
- 観察:電子線を用いる。
1.誤り。通常の病理標本作製と異なり,固定はグルタルアルデヒドとオスミウム酸の2重固定です。
2.正しい。
3.誤り。プロピレンオキシドが用いられます。
4.誤り。エポキシ樹脂が用いられます。
5.誤り。酢酸ウランとクエン酸鉛が用いられます。
PM 問47
解答:2・5
Papanicolaou染色とGiemsa染色の対比は細胞診の分野でよく出題されます。今回は固定の問題です。(問題がやや発展的ですが)
<Papanicolaou染色とGiemsa染色の違い>
Papanicolaou染色 | Giemsa染色 | |
固定 | 95%エタノール湿固定 | 乾燥固定 |
細胞のはがれやすさ | 剥がれやすい | 剥がれにくい |
細胞の大きさ(見え方) | 小さく見える | 大きく見える |
核小体 | 明瞭 | 不明瞭 |
細胞質顆粒の観察 | △ | ○ |
角化細胞の観察 | ○ | × |
重積細胞の観察 | ○ | △ |
血液細胞の観察 | △ | ○ |
1・3・4.誤り。いずれも湿固定です。
2・5.正しい。特にGiemsa染色は必ず覚えておきましょう。
PM 問48
解答:4
ホルマリン(ホルムアルデヒド)の問題は過去にも数問出題されており,定番の問題の1つです。
1・3.正しい。
2.正しい。ホルマリンは日光で酸化されやすいので,褐色ビンに入れて,暗所で保存します。
4.誤り。酸化によって生じるのはギ酸です。(HCOH→HCOOH)
5.正しい。ホルマリン原液のpHは約3.2であり,酸性を示します。
PM 問49
解答:5
病理分野の難問です。基本的に解けなくても大丈夫です。(本気で9割以上目指す人は覚えておいてもいいでしょう)
間質性肺炎には,明確な原因が存在しない特発性間質性肺炎と,原因が明確な間質性肺炎があります。このうち,原因がある間質性肺炎の原因には以下のようなものがあります。
- 膠原病
- 職業・環境
- 薬剤
- 放射線
- 感染症
よって,5の肺動脈血栓塞栓症は原因とはなりません。
1~4.正しい。
5.誤り。
PM 問50
解答:2
左心不全では,肺にうっ血が起こり,その影響で心臓病細胞(ヘモジデリン貪食Mφ)が出現します。本問はその細胞が青色に染まっているため,ヘモジデリン=3価の鉄を染める染色法を選べばOKとなります。
各種染色法については以下の記事でまとめてあります。
Berlin blue染色については以下の記事を参照してください。
1・5.誤り。Alcian blue染色・toluidine blue染色はいずれも多糖類(Alcian blueは酸性粘液多糖類と酸性粘液,toluidine blue染色は酸性粘液多糖類)を対象とした染色法です。
2.正しい。Berlin blue染色はヘモジデリン(3価鉄)を対象とした染色法です。他にアスベスト小体もBerlin blue染色陽性となります。
3.誤り。methylene blue染色は細菌を対象とした染色法です。
4.誤り。Nile blue染色は脂肪(中性脂肪とリン脂質)を対象とした染色法です。青色に染まるのはリン脂質のほうで,中性脂肪は淡赤色に染まる点に注意しましょう。
PM 問51
解答:2
細胞診を勉強していれば特に苦戦することなく解けるような基礎的問題ですが,細胞診をあまり勉強していなければ難問。
細胞質内に淡黄色の細かな顆粒と,黒の小さな顆粒を取り入れている(=貪食)ことから,塵埃細胞(肺胞組織球)であると推測できます。
1・3~5.誤り。
2.正しい。
PM 問52
解答:5
1~4.実施可能。血液等の採取,摘出した臓器からの肉眼標本の作成や縫合等の医学的行為については,臨床検査技師が行うことができます。ただし,死体の切開及び臓器の摘出に関しては,病理解剖医しか行えません。
5.実施不可。遺族への説明は病理解剖医が行います。
PM 問53
解答:2
1.誤り。メタ過ヨウ素酸ナトリウムやPFA(パラホルムアルデヒド)が含まれます。ホルムアルデヒドは非含有です。
2.正しい。ピクリン酸・ホルマリン・氷酢酸が15:5:1の割合で含まれます。
3.誤り。無水エタノール・クロロホルム・氷酢酸が6:3:1の割合で含まれます。ホルムアルデヒドは非含有です。
4.誤り。
5.誤り。ピクリン酸が含まれており,PLP液と同様の目的で用いられます。ホルムアルデヒドは非含有です。
PM 問54
解答:3
癌遺伝子は数が多いので,代表的な癌抑制遺伝子を覚えて消去法で攻めましょう。
※( )内は変異の見られる疾患
- p53(Li-Fraumeni症候群)
- RB(家族性網膜芽腫)
- WT1(Wilms腫瘍)
- APC(家族性大腸ポリポーシス)
- NF1(von Recklinghausen病)
- NF2(神経線維腫症2型)
- BRCA1(家族性乳癌)
- BRCA2(家族性乳癌)
1・2・4・5.誤り。いずれも癌抑制遺伝子です。
3.正しい。癌遺伝子です。
PM 問55
解答:1
脂肪染色に関しては以下の記事で解説してあります。
1.誤り。Congo red染色はアミロイドの染色法です。
2.正しい。中性脂肪を淡赤色に,リン脂質や脂肪酸を青色に染色します。
3.正しい。中性脂肪を赤色に染色します。
4.正しい。中性脂肪・リン脂質・脂肪酸を黒色に染色します。
5.正しい。中性脂肪を橙赤色に染色します。
PM 問56
解答:4
肉芽腫性炎は特異性炎+Crohn病と覚えましょう。
特異性炎のゴロはAM55で紹介しましたので,そちらをご参照ください。
1~3・5.誤り。
4.正しい。
PM 問57
解答:2・3
55回pm56のプール問題で,選択肢も全く同じです。過去問を対策していれば無条件に1点獲得できてしまいます。「おっ,そういえばこんな問題見たことあるぞ!」となればしめたもの。
(これは別に私に限ったことではなく,過去問を周回していれば誰でもそのくらいまではいけるはずです)
ただ,過去問を勉強していなければやや難問。それでも,アミロイドは無条件に選べるくらいの実力は欲しいところ。
(1)アミロイド(amyloid)って?
細胞外に沈着する多糖類と結合した異常蛋白です。
でんぷんと同じようにヨウ素に反応することから,でんぷん(amylum)に似ている(~oid)という意味で付けられました。
(2)観察法
光学顕微鏡だけでなく,偏光顕微鏡や電子顕微鏡でも観察できるのが特徴です。
・光学顕微鏡
・偏光顕微鏡
・蛍光顕微鏡
・電子顕微鏡
(3)沈着しやすい臓器
・肝臓
・腎臓
(4)沈着する代表的な疾患
・多発性骨髄腫
・甲状腺髄様癌
・Alzheimer型認知症
・慢性感染症,炎症
<アミロイド染色>
染色名 | アミロイドの染色結果 | 備考 | ||
光学顕微鏡 | 偏光顕微鏡 | 蛍光顕微鏡 | ||
Congo red染色 | 橙赤色 | 黄緑色 | (赤色) | 蛍光を発している わけではない |
toluidine blue染色 thionin染色 | 赤紫色 | メタクロマジー (異染性)を利用 | ||
thioflavine T染色 | 黄色 |
※表はスクロールできます。
1・4・5.誤り。
2.正しい。上記の通り。
3.正しい。偏光特性は結晶構造と密接な関係があるため,結晶学の分野でも用いられています。
PM 問58
解答:1
細胞数が少ない液状検体に対して有効です。
以下の4種類が主なものです。
- 遠心沈殿法
遠心してからその沈渣を塗抹して標本を作製する方法です。 - ポアフィルター法
検体をフィルターにかけて,フィルターごと固定して染色する方法です。 - セルブロック法
細胞成分を固定して,通常の病理標本を作製する方法です。
病理の特殊染色を行うこともできるのが大きなメリットです。 - オートスメア法
液状検体を遠心しながらスライドグラスに塗抹する方法です。
1.誤り。圧挫法は組織(リンパ節等)をスライドグラスに押し付ける方法であり,集細胞法ではありません。
2~5.正しい。いずれも集細胞法です。
臨床血液学(PM59~67)
PM 問59
解答:3
異型リンパ球は,EBウイルスに感染したB細胞を攻撃するために活性化したT細胞(細胞障害性T細胞)です。よって,3が正しい説明となります。
↑これが異型リンパ球です。
PM 問60
解答:4
血小板機能異常症はよく出題されます。遺伝形式や検査所見も含めて,以下の表は頭に入れておきましょう。
<血小板機能異常症>
疾患名 | 血小板無力症 | Bernard-Soulier 症候群 | von Willebrand病 | storage pool病 | |
原因 | GPⅡb/Ⅲa 欠損/分子異常 | GPⅠb/Ⅸ 欠損/分子異常 | vWF 質的/量的異常 | 血小板顆粒 減少・欠損 | |
血 小 板 検 査 | 出血時間 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ |
粘着能 ・ リストセチン 凝集能 | → | ↓ | ↓ | → | |
ADP凝集能 ・ エピネフリン 凝集能 | 一次凝集:↓ 二次凝集:↓ | 一次凝集:→ 二次凝集:→ | 一次凝集:→ 二次凝集:→ | 一次凝集:→ 二次凝集:↓ | |
コラーゲン 凝集能 | ↓ | → | → | ↓ | |
血小板形態 | 正常 | 巨大血小板 (血小板数↓) | 正常 | 正常 | |
血餅退縮能 | ↓ | → | → | → | |
凝固 検査 | PT | → | → | → | → |
APTT | → | → | ↑ (稀に→) | → | |
遺伝形式 | 常劣 | 常劣 | 常優 | 常劣 |
※GP:グリコプロテイン
vWF:フォンヴィレブランド因子
1.正常。凝固時間(ACT)はあまり聞かない検査項目ですが,APTTとほぼ同じと考えて大丈夫です。凝固因子に異常はないため,正常です。
2.正常。血小板機能には異常があるが,血小板数自体には異常はありません。
3・5.正常。血小板の粘着能は正常です。
4.異常。GPⅡb/Ⅲaは血小板同士の凝集に関与する糖蛋白です。血小板無力症はこのGPⅡb/Ⅲaに異常がある先天性疾患のため,血小板凝集能は低下します。そのため,凝集能を評価できる出血時間や血餅退縮能,ADP・エピネフリン・コラーゲン惹起血小板凝集能検査で異常を示します。
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コメント
56番の回答がおかしい気がするのですが、どうでしょう!
コメントありがとうございます。
該当箇所を修正しました。ご指摘ありがとうございます。